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(宮村と堀)
堀さんの胸は薄っぺらいから、抱きしめられたときにほっとするようなやわらかさがあんまりない。かと言ってそのほっとするようなやわらかさを堀さんに求めているかと言うとそうではなくて、むしろあの感覚になれてしまった今は、抱きしめられたときに直接心音が聞こえるようなこのかんじがとても、すきだ。
体重がほとんど同じだから自分は太いんだと思い込んでいる節があるけれど、十分細いと思う。テレビを見ているときや、雑誌を読んでいるときに時折二の腕を軽く揉んだり、食事を終えたあとにおなかをじっと見つめている顔がせつない。それを見て、もう少し自分が太っていれば良かったのかと思う。というのを以前誰かに言ったら、太るんじゃなくて体形の問題じゃないの、と言われた。誰だっただろうか。いろんな人に言われた気もする。言われなかった気もする。あるいは妄想かも。
堀さん、と名前を呼ぶ。こちらを見た堀さんの、黒い線でふちどられた瞳に俺が映る。その俺はうっすら笑っていて、なぜかぞっとした。俺はこんなふうに、見られているんだ。こんなかたちをしているんだ。ほかの誰かと比べると、随分と華奢な体。貧相な腕とか足とか。堀さんの嫌がる、体重。軽い。かと言って今から太れるかと言われると、そうではなく。太りたいわけではなく。
「どしたの、宮村」
自分の体と比べると、さして変わらない堀さんの体。もしも自分が堀さんと同じ立場であればどう思うだろうと考えた。でも、別に体形が似ていようが体重が同じであろうがいいじゃないかという結論に至った。男と女の脳のつくりは違うから、根本的なところからひっくり返ればあるいは、いやなのかもしれない。腕相撲をしたら負けるって、知ってる。堀さんのほうがずっと強いのも。でもたまにとても彼女は弱くなるから、俺は自分が貧相でも、気にならないのかもしれない。
なんでもないよと言うと、堀さんは笑った。へんなの、そう笑って振り返る瞬間の、首の細さにせつなくなった。
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