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(ゼオンと清麿)
この人間はとても弱いはずなのに、弱くて当然でそれがおかしいと思うこと自体がおかしいことなのに、なぜか強くなければならないはずだと思うことがあって戸惑う。頭脳的に見れば確かに自分より賢い、あるいは言い方を変えれば、強い、のかもしれないが、それ以外を見ればどちらが強いかなんて火を見るより明らかだ。
一昔前の王を決める戦いでは、まだ体躯も子供で自分の方が脆弱に見えたかもしれない。けれど背丈さえほとんど同じになってしまえば、どうだ。大きくなって昔以上に筋肉も丈もある自分に比べ、成長をほぼ終え、戦いから一歩退いて筋肉の衰えた人間。とても弱く、見える。見えるだけでなく、本当に弱いのだ、人間という生き物は。
「……俺の体に何かついてるか、ゼオン?」
「……何も。いいから手を動かせ」
ちらりとこちらを見た黒い瞳を真正面から見つめると、ふ、と細められた。なにかモノ言いたげな空気を感じたが、それを言わせる前に止める。しばらくこちらをじっと見ていた瞳はまた下りて、手元の書類へ。細い指先が羊皮紙を捲る。伏せられた瞼と、妙に長い睫毛が頬に影を落とした。はかない、という言葉がふと頭に浮かんで、消える。
記憶の中のこの人間は、もう少しがっしりとしていて、強い意思に満ち溢れていて、何かパートナー以外のなにものも近寄らせないような緊張感があった。それを今ちっとも感じないのは、一昔前の自分があまりにも幼かったからだろうか。それともこの人間の纏う空気が、とても穏やかなものに変わったからだろうか。答えなど考えたところで、この人間に聞いたところでわからないのだろうけれど。
言いたいことがあるなら言えよと目の前の人間は言う。言いたいことなど何も無い。何も無いながら、なぜか気づくと目をやっている。その理由は、突き詰めればわかるであろうことに気づいて、考えるのをやめた。
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